秋の管理事務所で、同じ部屋の募集図面を前に「この部屋は誰に届けたいか」を考えている賃貸管理担当者

賃貸募集はターゲット別に。単身・学生・法人で変える打ち出し方

募集図面のコメント欄に「駅近・日当たり良好・閑静な住宅街」。ポータルの紹介文にも、同じ言葉を少し並べ替えて入れた。間違ったことは何も書いていないのに、反響はぽつぽつとしか来ない。「もっといい言葉があるはずなんだけど」と、画面の前で手が止まってしまうこと、ありますよね。

それは、言葉選びが下手だからではないと思います。「誰に向けて書くか」がまだ決まっていないだけのことが多いんです。誰にでも当てはまる言葉は、誰の心にも引っかかりにくい。逆に「これは自分のための部屋だ」と思ってもらえれば、同じ部屋でも反響の質が変わってきます。

結論:募集の打ち出しは、①部屋の事実を書き出す →②この部屋がいちばん合う人を一人決める →③その人が気にすることの順に、事実を並べ替える、の3ステップで変えられます。賃貸でよく出てくる主役は単身・学生・法人の3つ。単身なら「通勤と暮らしやすさ」、学生なら「学校までの距離と、親が安心できる材料」、法人なら「手続きの早さと契約条件の分かりやすさ」が前に来ます。部屋を変えなくても、並べる順番を変えるだけで届き方は変わります。

一度に全部の物件でやらなくて大丈夫です。まず、いま募集中の1部屋で試してみましょう。

何が起きているか

ポータルサイトで部屋を探す人は、たくさんの物件を短い時間で見比べています。一覧に並ぶのは、写真と家賃と、紹介文の最初の一行くらい。そこで「自分に関係ありそう」と思えなければ、詳細ページは開かれません。

ところが、募集の現場ではつい「この部屋のいいところを全部書こう」としがちです。駅近、南向き、バストイレ別、独立洗面台、オートロック、ネット無料。どれも本当のことですし、削るのはもったいない気がします。

でも、探している人によって「いいところ」の順番は違います。

同じ「駅徒歩8分」でも、誰が読むかで刺さり方が変わる。全部を同じ重さで並べると、どの人にとっても「自分ごと」の一行が埋もれてしまいます。

ここで一つ、大切なことをお伝えしておきます。ターゲットを決めるのは、打ち出しの順番を決めるためで、それ以外の人をお断りするためではありません。学生向けに打ち出した部屋に社会人から申込みが来たら、普通に歓迎して大丈夫です。入居審査は、ターゲットとは別に、いつもの基準で落ち着いて行います。

打ち出しを変える3ステップ

同じワンルームの部屋を、単身の社会人・学生と親・法人の総務担当という3者がそれぞれ違う視点で見ている3列の図
同じ部屋でも、見る人によって気にするところが違う。主役を一人決めると、並べる順番が決まる。

やることは3つだけです。順番に見ていきます。

ステップ①:部屋の事実を、評価をつけずに書き出す

まず、紙かメモに部屋の事実を並べます。ここではまだ「売り文句」にしなくて大丈夫です。

最後の「オーナーが受けられる条件」は、意外と把握できていないことがあります。法人契約を受けるかどうか、聞かれてから確認するのでは間に合わない場面もあるので、ここで一度オーナーに確かめておくと安心です。

ステップ②:この部屋が「いちばん合う人」を一人決める

書き出した事実を眺めて、「この部屋を一番喜んでくれるのは誰か」を一人決めます。決め手になりやすいのは次のあたりです。

迷ったら、「主役は一人、脇役は一人まで」と決めてしまいましょう。主役に向けて一行目を書き、脇役にも届く情報を二行目以降に置く。それで十分です。

ステップ③:その人が気にすることの順に、事実を並べ替える

主役が決まったら、ステップ①の事実を、その人が気にする順に並べ直します。新しく何かを足すのではなく、順番を変えるのがポイントです。

ターゲットごとの「気にすること」は、次の章で整理します。

単身・学生・法人、それぞれが気にすること

単身(社会人):通勤と、帰ってからの暮らしやすさ

一人暮らしの社会人が見ているのは、毎日の往復が楽かどうかと、疲れて帰った夜にストレスがないかです。

在宅勤務をする人がいまも一定数いるので、「机を置ける壁がある」「ネットが各部屋まで来ている」といった情報は、書いておくと伝わりやすいところです。

学生:学校までの近さと、親が安心できる材料

学生向けの打ち出しで大事なのは、本人と親の両方が読むという前提です。

なお「女性向け」「学生限定」のような書き方は、オーナーの方針として入居者を限定する場合に使う言葉です。打ち出しを学生向けにするだけなら、限定と書かずに、学生が喜ぶ事実を前に出すほうが、ほかの層の申込みも取りこぼしません。

法人:手続きの早さと、条件の分かりやすさ

法人契約では、部屋を選ぶ人と契約を進める人が分かれていることが多いものです。社員本人が部屋を気に入っても、会社の規程や手続きで止まることがあります。

法人の担当者は、限られた期間で複数の転勤者の部屋を決めていることがあります。「何をいつまでに出せば、いつ住めるか」が一目で分かることが、いちばんの打ち出しになります。手続き全体の流れは賃貸の申込から契約までの流れ、必要書類と抜け漏れを防ぐ段取りも参考にしてください。

具体例:同じ1Kでも、主役を決めると一行目が変わる

築18年、1K・23㎡、家賃62,000円、共益費3,000円。最寄り駅から徒歩12分。ネット無料、駐輪場あり、オートロックなし、2階角部屋。8月末に退去があり、9月から募集していました。

主役を決めずに書いていたとき

「駅徒歩12分。2階角部屋・日当たり良好。バストイレ別、ネット無料。閑静な住宅街で落ち着いた暮らしができます。」

間違いはありませんが、一覧で見る人にとっては「駅から12分か、ちょっと遠いな」で止まってしまいます。9月の反響は2件、内見は1件でした。

事実を書き出してみると

ステップ①で事実を並べ直したところ、地図の上では、私立大学のキャンパスまで自転車で約8分の場所にありました。前の入居者もその大学の学生だったことが、管理台帳から分かりました。駅からは少し遠くても、学生にとっては「通学路のほうが近い」部屋です。

学生を主役にして書き直したとき

「〇〇大学まで自転車8分。駐輪場あり・ネット無料で、入学準備の手間を減らせます。2階角部屋で、管理会社の連絡先は平日夜まで対応。親御さんにも安心していただける初期費用の内訳を図面に記載しています。」

部屋は何も変えていません。写真も、駐輪場と、机を置いた引きの1枚を足しただけです。そのうえで、大学の近くの仲介会社2社に「学生さん向けに打ち出し直しました」と図面を持っていきました。

10月に入って反響は少しずつ戻り、今後は年内に進学先が決まる受験生の動き出しにも合わせて、12月から改めて掲載を強める予定にしています。

仮にこの打ち出しで空室期間が2か月短くなれば、62,000円 × 2か月 = 124,000円の家賃を取りこぼさずに済む計算になります。家賃を下げずに、並べる順番を変えただけで試せる一手です。家賃改定を考えるのは、こうした打ち出しの見直しをやったあとでも遅くありません(募集条件の見直し、家賃を下げる前に試せる選択肢)。

影響

主役を決めて打ち出すと、こんなところが変わってきます。

反響の「質」が変わる。数が劇的に増えるとは限りませんが、「この部屋だから問い合わせた」という人が増えます。内見から申込みまでの距離が近くなり、案内の手応えが違ってきます。

仲介会社が紹介しやすくなる。「この部屋は学生さん向けです」と一言で言える物件は、仲介の担当者がお客さんに勧めやすい物件です。仲介会社に物件を覚えてもらう、情報提供と連絡の続け方ともつながる話です。

オーナーとの相談が具体的になる。「学生向けに打ち出すので、駐輪場の屋根を直したい」「法人を狙うので、入居可能日を確定させたい」と、設備や条件の相談に理由がつきます。漠然と「何か手を打ちましょう」と言うより、ずっと話がしやすくなります。

自分の書く手が止まらなくなる。誰に書くかが決まると、紹介文は驚くほど書きやすくなります。言葉を探して手が止まっていた時間が、短くなります。

明日やること

全部をやる必要はありません。明日は、このうち一つで十分です。

  1. 募集中の1部屋を選んで、事実を10個書き出す。評価はつけず、事実だけを並べます。
  2. 地図で、近くの大学・専門学校・大きな事業所を確認する。駅以外の「通う先」が見つかることがあります。
  3. 前の入居者や、同じ建物の入居者の属性を管理台帳で見る。どんな人が住んでいたかが、いちばんのヒントです。
  4. オーナーに「法人契約は受けられますか」と一度聞いておく。聞かれてから確認するより、ずっと話が早く進みます。
  5. 紹介文の一行目だけを、主役に向けて書き直す。全文を直さなくても、一行目が変われば一覧での見え方が変わります。

チェックリスト

打ち出しを見直すときに使ってください。全部に印が付かなくても問題ありません。

準備(共通)

単身(社会人)向け

学生向け

法人向け

ターゲットと審査を分けて考える

なお、ここで挙げた「気にすること」は一般的な傾向で、エリアや物件によって違います。担当エリアの反響や申込みの傾向を記録していくと、自分の物件に合ったターゲットの型ができていきます。また、募集条件や入居者の限定(「学生限定」など)はオーナーの判断事項です。提案として整理し、決定はオーナーに確認したうえで進めてください。

よければ、こちらも

関連用語

書き直した募集図面を手に、明るい表情で仲介会社の店舗へ向かう賃貸管理担当者
部屋は変えなくても、届け方は変えられる。一行目を書き直した今日の一手が、次の入居者につながっていく。

最後に

募集の紹介文を書く仕事は、地味です。毎日のように同じ形の部屋の図面を作って、同じような言葉を並べて、それでも反響が来ないと、「自分の書き方が悪いのかな」と思ってしまう。

でも、反響が来ないのは、部屋の良さが足りないからでも、あなたの文章が下手だからでもないことが多いんです。部屋の良さが、まだそれを一番喜ぶ人の前に置かれていないだけ。

「この部屋は、誰の暮らしを支えるんだろう」と考えるのは、空室を埋めるための作業でありながら、その部屋で始まる誰かの新しい生活を想像する仕事でもあります。そういう仕事を、毎日ちゃんと続けている。それだけで、もう十分に前へ進んでいます。

今日は、募集中の1部屋の紹介文の、一行目だけを書き直してみましょう。主役を一人決めて、その人に向けて一行。そこから届き方が少しずつ変わっていきます。