
クレームの引き継ぎ、担当交代や不在でも慌てない申し送りメモの型
休みの日に限って、あの入居者から電話が来る。 代わりに出た同僚が「前回どこまで話してたの?」と困った声でLINEしてくる——そんな場面、覚えがありませんか。
クレーム対応は、一度で終わらないことがほとんどです。現地確認、相手方への連絡、オーナーへの報告、業者の手配。数日から数週間かけて少しずつ進むあいだに、担当者の休み、異動、退職、急な体調不良がはさまります。そのたびに経緯は担当者の頭の中に閉じこもり、受けた人は手探りで話すことになる。入居者からすれば「また最初から説明させるの?」となり、せっかく落ち着きかけた気持ちがもう一度ざわついてしまいます。
引き継ぎがうまくいかないのは、誰かがさぼっているからではありません。目の前の対応で手一杯で、「人に渡す形」で残す時間がなかっただけです。
結論:クレームの引き継ぎは、長い報告書ではなく「5つの欄を埋めた申し送りメモ1枚」で足ります。①相手と今の温度感、②ここまでの経緯(事実だけ)、③約束していること(期限つき)、④次の一手、⑤気をつけたいこと。とくに大事なのは③の「約束」です。今日は、いま抱えている案件のうち1件だけ、この型で書いてみるところから始めましょう。
先に、押さえたいところを3つだけ。
- 申し送りは「経緯の全部」ではなく、受けた人が次の一言を話せる分だけでいい
- いちばん漏れて困るのは、入居者と交わした約束と、その期限
- 書くのは「担当が変わると分かったとき」ではなく、対応を一区切りするたびに少しずつ
何が起きているか:クレームの引き継ぎでつまずくところ
クレームの引き継ぎで困る場面は、だいたい決まっています。
ひとつは、約束が宙に浮くこと。前の担当者が「金曜までに上の階に話して、折り返します」と伝えていたのに、それが申し送りに書かれていない。金曜が過ぎても連絡が来ず、入居者の不満は「騒音」から「管理会社の対応」へと移ってしまいます。クレームがこじれる入口は、実は問題そのものより、こうした約束の取りこぼしであることが多いんです。
もうひとつは、温度感が伝わらないこと。経緯は書いてあっても、「相手はかなり疲れていて、言い方に敏感になっている」「前回の電話で一度声を荒げられた」といった空気は抜け落ちがちです。それを知らずに事務的に話してしまい、同じ地雷を踏んでしまう。受けた側にとっても、知っていれば構えられたことです。
そして、事実と推測が混ざって伝わること。「上の階の子どもの足音が原因」と書かれていても、それが確認済みの事実なのか、前の担当者の見立てなのかで、次の動き方は変わります。推測が事実として引き継がれると、相手方への話し方を誤る原因になります。
記録そのものの残し方はクレーム対応履歴の残し方、後で活きる記録テンプレの作り方で整理しました。今日の話はその一歩先、記録を「人に渡せる形」にまとめ直すところです。
申し送りメモを5つの欄に分けて書く

一度に完璧なものを作ろうとしなくて大丈夫です。埋める場所を5つに決めておけば、書く側も読む側も迷いません。
① 相手と、今の温度感 「◯◯コーポ 201号室 □□様/上階の生活音の苦情/現在:やや落ち着いてきたが、対応の遅さに敏感」。部屋番号と案件の一言、そしていまの気持ちの状態を一行で。温度感は「怒っている」「疲れている」「こちらを信頼してくれている」くらいの言葉で十分です。受けた人が最初の一言の調子を決める、いちばん大事な手がかりになります。
② ここまでの経緯(事実だけ、日付つき) 「10/3 初回入電 → 10/5 現地確認、夜21時ごろ足音あり → 10/7 上階に書面で注意喚起」。日付と出来事を矢印でつなぐだけで足ります。ここには確認できた事実だけを書き、推測は⑤に回します。細かいやりとりは元の対応記録に任せて、「記録はここにあります」と置き場所を書いておけば十分です。
③ 約束していること(期限つき) 「10/14(火)までに、上階の反応を□□様に電話で報告すると約束済み」。誰に・何を・いつまでに。ここが空欄だと、引き継いだ人はそれを知る手段がありません。約束がない場合も「現在、約束している連絡はなし」と書いておくと、受けた人は安心できます。
④ 次の一手 「上階から返事がなければ、10/13に電話で状況を確認」。前の担当者が考えていた次の動きを、一行で。受けた人がそのとおりにする必要はありませんが、出発点があるだけで判断はずっと楽になります。
⑤ 気をつけたいこと 「夜の電話は避けてほしいと言われている」「上階が原因と決めつけた話し方はしない(まだ確認できていない)」「オーナーには10/7時点まで報告済み」。相手の希望、まだ分かっていないこと、オーナーへの共有状況。知らないと同じことを繰り返してしまうことをここに集めます。
図では4つに絞って描いていますが、⑤は気づいたときに足していく欄です。最初は①〜④が埋まっていれば、引き継ぎとしては十分に役目を果たします。
具体例:休みの日にかかってきた電話
たとえば、こんな場面です。
担当のAさんが有給の日、騒音の件で201号室の方から電話が入ります。出たのは同じチームのBさん。案件のことはほとんど知りません。
申し送りメモがない場合、Bさんは「担当が休みでして、明日折り返させます」と答えるしかありません。入居者は「先週から何度も言っているのに」と感じ、電話はぎこちないまま終わります。
申し送りメモがあれば、Bさんは画面を開いて30秒で状況をつかめます。「□□様、Aから伺っています。10/7に上の階へ書面でお伝えしていて、火曜までにご報告するお約束でしたね。Aが明日出社しますので、予定どおり火曜までにお電話します」。「伺っています」と言えるだけで、入居者の安心は大きく変わります。 問題はまだ解決していなくても、「ちゃんと引き継がれている」こと自体が、管理会社への信頼になるんです。
引き継ぎがうまくいくと、何が変わるか
申し送りメモは、受けた人のためだけのものではありません。
入居者にとっては、同じ説明を繰り返さなくて済みます。クレームを伝えるのは、それだけでエネルギーがいること。二度目の説明をさせないことは、それ自体が丁寧な対応です。
受けた同僚にとっては、知らない案件で矢面に立つ不安が減ります。「何も分からないまま怒られる」状況がなくなるだけで、チームで支え合いやすくなります。
そしてあなた自身にとっては、休みの日に電話を気にしなくてよくなります。「自分がいないと回らない」状態は、責任感の強い人ほど抱え込みやすいもの。申し送りメモは、安心して休むための準備でもあります。休める担当者のほうが、結果的に長く良い対応を続けられます。
なお、異動や退職で担当そのものが変わるときは、メモを渡すだけでなく、入居者へ「担当が変わります」と一言伝えるところまでを引き継ぎに含めておくと、後任の最初の連絡がずっとスムーズになります。夜間や休日の連絡体制そのものを見直したいときは、夜間・休日の緊急連絡、ひとりで抱えない一次受けと手配の体制づくりもあわせてどうぞ。
明日やること
全部の案件を一度に書き直す必要はありません。どれかひとつからで大丈夫です。
- いま抱えているクレームのうち、いちばん長引いている1件だけ、5つの欄で申し送りメモを書いてみる
- その案件で入居者と約束していることを、期限つきで1行書き出す
- 申し送りメモの置き場所(共有フォルダ・管理ソフトのメモ欄など)をチームで1か所に決める
1件書いてみると、「これだけでいいんだ」という感覚がつかめます。そこから、対応を一区切りするたびに少しずつ足していけば十分です。
そのまま使える申し送りメモ
コピーして、共有フォルダや管理ソフトのメモ欄に貼って使ってください。
■クレーム申し送りメモ (作成: / 更新日: 月 日)
① 相手と温度感
物件・部屋: お名前: 様
案件:
今の様子:(例:落ち着いている/対応の遅さに敏感/かなり疲れている)
② ここまでの経緯(事実だけ・日付つき)
月 日:
月 日:
月 日:
詳しい対応記録の場所:
③ 約束していること(誰に・何を・いつまでに)
(約束なしの場合は「なし」と書く)
④ 次の一手
⑤ 気をつけたいこと
・相手の希望(連絡してよい時間帯・手段など):
・まだ確認できていないこと:
・オーナーへの報告状況:
チェックリスト
まずはここだけ(最低限)
- 物件・部屋番号と、案件を一言で書いたか
- 相手のいまの温度感を一言で書いたか
- 入居者と約束していることを、期限つきで書いたか(なければ「なし」と書いたか)
- 次の一手を1行書いたか
余裕があれば
- 経緯を日付つきで、事実だけに絞って書いたか
- 推測やまだ確認できていないことを、事実と分けて書いたか
- 連絡してよい時間帯など、相手の希望を書いたか
- オーナーへどこまで報告済みかを書いたか
- 元の対応記録の置き場所を書いたか
- 担当が変わる場合、入居者へ伝える段取りを決めたか
申し送りメモには、入居者の氏名や連絡先、生活の様子などの個人情報が含まれます。共有する範囲(チーム内だけにする、個人のスマホに残さないなど)と保管の方法は、勤務先のルールに沿って扱ってください。
よければ、こちらも
引き継ぐ前の「記録」そのものの残し方はクレーム対応履歴の残し方、後で活きる記録テンプレの作り方に、受けた電話の最初の受け止め方は騒音クレームの一次対応、最初の電話で慌てないための手順にまとめています。言い方が強い相手への向き合い方はカスハラ気質な要求に、線引きと記録で自分を守る対応の順番もどうぞ。
最後に、ひとつだけ伝えたいことがあります。

最後に
クレームを最後まで自分で見届けたい、と思うのは、あなたが入居者のことを本気で考えているからだと思います。だからこそ、担当を離れる日が不安になる。
でも、引き継ぎは「手放すこと」ではありません。あなたが積み上げてきた対応を、途切れさせずにつなぐことです。申し送りメモ1枚があれば、あなたがいない日も、あなたの丁寧さは入居者に届きます。
次にクレーム対応を一区切りしたら、まず「約束していること」を1行だけ書き残してみましょう。それだけで、明日のあなたと、隣の同僚が、少し楽になります。