退去した空室でフローリングの傷やへこみを確認し、原状回復の負担をどう見るか考える賃貸管理担当者

フローリングの傷・へこみ、原状回復の負担はどう算定する?線引きの整理

退去した部屋に入って床を見たら、家具を引きずったような線傷や、点々としたへこみ、キャスターの跡が残っている。そんな床を前にして、「このフローリング、張り替える費用を入居者さんにどこまで請求していいんだろう」と手が止まったことはありませんか。

床の傷は、写真にもはっきり写るぶん、感情が動きやすいテーマです。オーナーからは「こんなに傷だらけなんだから全部借主負担で」と言われ、入居者からは「普通に暮らしていただけ」と返ってくる。その板挟みの真ん中で、精算書にいくら載せるかを決めるのは、気を使う仕事ですよね。

しかもフローリングは、壁紙(クロス)と減価償却の考え方が少し違います。ここを混同したまま「クロスと同じように6年で計算」としてしまうと、あとで根拠を問われたときに説明が食い違ってしまいます。今日は、その違いを落ち着いて整理していきましょう。

結論:家具の設置跡やキャスターの通常使用によるへこみは通常損耗として貸主負担になりやすい一方、引きずり傷・こぼした液体の放置による腐食・落下による深い傷など、手入れを怠ったり不注意で生じた損傷は借主負担と判断されやすい部分です。ただしフローリングは、毀損箇所だけを部分補修する場合、経過年数(減価償却)を考慮しないのが国交省ガイドラインの考え方。全面張替えが必要なときだけ建物の耐用年数で割合を考えます。線引きは「①通常損耗か、故意過失・手入れ不足の損傷か → ②部分補修か全面張替えか → ③金額の根拠を精算書に整える」の順で見ていきます。

最初から「全額請求」か「請求しない」かの二択で考えなくて大丈夫です。次の3つの順番で見ていくと、落ち着いて線を引けます。

  1. その傷・へこみが通常の使用の範囲か、故意・過失や手入れ不足によるものかを切り分ける
  2. 毀損箇所を部分補修できるか、全面張替えが必要かを見極める
  3. 施工単位(㎡単位か全面か)と金額の根拠を精算書に整える

何が起きているか:まず「通常損耗」と分けて考える

フローリングの傷の負担を三つの視点で確かめる賃貸管理担当者
「通常使用か(原因)」「部分か全面か(範囲)」「金額の根拠(説明)」の三つに分けると、線を引きやすい。

テーブルや棚を置いていたことによる床のへこみや、日照による色あせのように、普通に住んでいれば生じる損耗(通常損耗)は、原則として貸主負担です。家賃には、その分の回復費用があらかじめ含まれている、という考え方だからです。

一方、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、次のようなものは通常の使用を超えるものとして借主の負担と判断され得ると整理されています。

ポイントは、「傷があるかどうか」ではなく「その傷が、通常の生活で避けられないものか、それとも不注意や手入れ不足で生じたものか」です。ですから最初に確かめたいのは「この傷・へこみは、通常使用の範囲といえるか」。入居時の床の状態や、傷の種類・深さなどから、通常損耗と切り分けます。ここをあいまいにしたまま「傷があるから全額」と反射で処理すると、根拠を問われたときに苦しくなります。

※ここでの「原則」はガイドラインの考え方です。ガイドラインは法律そのものではなく、契約の特約や個別事情で結論が変わる場面があります。判断に迷う金額・ケースは、必ずガイドライン本文と契約書、必要なら専門家・相談窓口で確認してください。

具体例:フローリングは「部分補修なら減価償却しない」

フローリングでいちばん見落とされやすいのが、壁紙(クロス)との減価償却の考え方の違いです。

クロスは、耐用年数6年で残存価値1円まで償却する、という考え方が示されていて、住んだ年数が長いほど借主の負担割合は下がります。「6年住んだらクロスの張替費用そのものはほとんど請求しにくい」という、あの考え方です。

ところがフローリングは扱いが違います。ガイドラインでは、フローリングの部分補修(毀損箇所を㎡単位で補修する場合)は、経過年数を考慮しないとされています。理由は、フローリングは消耗品的な性格が薄く、部分的な張替えで価値が回復するとは考えにくいためです。つまり、

という整理になります。「クロスと同じで6年たてば負担ゼロ」と思い込むと、部分補修のケースで説明がずれてしまいます。逆に「フローリングは減価償却しないから全面張替えも全額」と考えるのも行き過ぎで、全面張替えのときは建物の耐用年数で割合を考えます。ここは費目と施工方法ごとに分けて見るのが大切です。

影響:施工単位と根拠で、揉め方が大きく変わる

もうひとつ精算でこじれやすいのが、「どこまでの範囲を請求するか」です。傷が一部でも「見た目がそろわないから全部張り替えたい」となりがちですが、ガイドラインでは、原状回復は毀損した箇所を対象とするのが基本で、フローリングも毀損部分の㎡単位で考えるのが原則とされています。

一枚板をまたいだ傷などで部分補修が難しい場合もありますが、「傷が及んでいた範囲」と「なぜその施工単位にしたのか」を、写真や記録で説明できる状態にしておくことが大切です。全面張替えを選ぶなら、なぜ部分補修では対応できなかったのかの理由も添えられると、話がこじれにくくなります。

負担の考え方が整理されていても、精算書に金額だけがぽんと載っていると、入居者は身構えます。「どの傷を・なぜ借主負担にしたのか」「部分補修なのか全面張替えなのか」「経過年数を考慮したのか(全面のとき)」——この根拠が一言添えられているかどうかで、同じ金額でも受け取られ方はまったく変わります。

明日やること

今日いきなり全部を整える必要はありません。次のどれかひとつだけ、手元で準備してみましょう。

このうちひとつ用意できるだけで、根拠を持って線を引きやすくなります。

チェックリスト(優先度つき)

時間がないときは、まずSだけ確認すれば処理の方向は決められます。

S(必須・ここだけは確保)

A(当日中に確認)

B(後追い可)

負担の考え方が整理しづらいときは、無理にその場で結論を出さず、いったん保留してオーナーや社内、業者と協議する流れでも大丈夫です。

入居者に伝えるときの考え方

フローリングの精算を整理し終え、窓辺で一息つく賃貸管理担当者
傷ごと・施工方法ごとに線を引けたら、それで十分前進です。

請求する場合でも、伝え方ひとつで受け取られ方が変わります。

入居者も、頭ごなしに全額を求められると身構えますが、「ここは負担、ここは貸主側」と傷ごとに線を示されると、納得しやすくなります。金額が高額だったり、解釈が割れて折り合わないときは、ガイドライン本文や契約書を確認し、必要なら所属団体の相談窓口や専門家へつなぐ流れに。

最後に

フローリングの精算は、傷が写真にはっきり残るぶん、つい感情で全額を求めたくなる場面です。でも、今日は「通常使用か(原因)」「部分か全面か(範囲)」「金額の根拠(説明)」——この3つの順でSを満たす。それだけで十分前進です。

原則は、通常の使用による床のへこみ・色あせは貸主負担、引きずり傷や放置によるシミなどは借主負担となり得る。そして、部分補修なら経過年数は考慮せず、全面張替えのときだけ建物の耐用年数で割合を考える。迷ったら保留して協議で大丈夫です。無理にその場で白黒をつけなくても、傷ごと・施工方法ごとに順番に確かめていけば、根拠のある線は必ず引けます。感謝されにくい仕事ですが、根拠を持って落ち着いて精算できたその一件が、入居者ともオーナーとも、余計なこじれを静かに減らしています。

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