退去後の和室で、破れた障子紙とふすまの穴を確認しながら負担区分をメモしている賃貸管理担当者

網戸・ふすま・障子の破れ、張替え費用は誰の負担?単価の見方も整理

退去のあと、部屋を一周して最後に目が留まるのが、網戸とふすまと障子だったりします。

網戸の下のほうが、猫の爪でしょうか、大きく裂けている。ふすまには膝がぶつかったような穴がひとつ。障子は、窓際の一枚だけ全体が黄ばんで、ほかは白いまま。

金額としては、決して大きくない項目です。それなのに、どれを請求してどれを外すかで毎回手が止まる。しかも見積書には「網戸張替え 一式」とだけ書いてあって、これが高いのか妥当なのかも分からない。

ここは、迷って当たり前の場所です。クロスやフローリングとはルールの一部が違ううえ、その違いが契約書に書いてあることはほとんどありません。今日は、この3つの建具の仕分けを、順番に一緒に整理していきます。

結論:見る順番は3つです。①原因で分ける——日焼けによる変色や、破れていない網戸の張替えは、何年住んでいても貸主負担。②入居者負担と決まったものだけ、経過年数の扱いを確認する——ふすま紙・障子紙は消耗品として扱われるため、経過年数を考慮しない(年数で負担割合が下がらない)。③見積りを数量と単価に分ける——「一式」のままにせず、何枚ぶんの張替えなのかを実際の破損枚数と突き合わせる。

順番を飛ばさないことが大事です。②の「年数を考慮しない」だけを先に持ち出すと、本来は貸主が持つべきものまで請求してしまいます。ひとつずつ見ていきます。

まず、「紙・網の張替え」と「建具ごとの交換」を分ける

先にここだけそろえておくと、あとの話がラクになります。

網戸・ふすま・障子は、どれも「枠(骨)」と「そこに張ってあるもの」でできています。

退去精算でよく出てくるのは、上の「張替え」のほうです。原状回復の考え方が整理されているのも、主にこちらの話になります。

一方、枠や骨まで折れていて建具ごと交換というのは、金額の桁が変わります。ここは「紙が破れた」の延長ではなく、設備を1つ取り替える話に近づくと考えておくと、見積りを見る目が変わります。骨が折れていないのに建具ごとの交換になっている見積りが来たら、張替えで足りないかを一度聞いてみるのが自然な確認です。

日に焼けて色あせた障子と、猫の爪で破れた網戸を左右に並べ、それぞれの負担先を示した図
傷んだ原因が違えば、負担する人も変わる。

手順1:その傷みは「通常損耗」か「使い方によるもの」か

出発点はここです。先に外すべきものを外すところから始めます。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」——実務でも裁判でも参照される標準的な物差しです(国交省「原状回復ガイドライン」の読み方)——の考え方に沿うと、次のように整理できます。

貸主(賃貸人)負担になりやすいもの

入居者(賃借人)負担になりやすいもの

冒頭の部屋に当てはめると、窓際の障子1枚の黄ばみは貸主負担猫の爪痕の網戸とふすまの穴は入居者負担の候補、ということになります。同じ部屋の中に両方が並んでいる——現場では、これが普通です。

ここで押さえておきたいのは、「張り替えるかどうか」と「誰が払うか」は別の話だということ。次の募集のために全部の障子を張り替えること自体は、まったく問題ありません。そのうち入居者に請求するのは、原因が使い方にある部分だけ、と切り分ければいいだけです。

判断の土台になる考え方は、経年劣化と通常損耗の違い、貸主負担になりやすい箇所の整理メモにまとめています。

手順2:入居者負担のものだけ、経過年数の扱いを確認する

手順1で「入居者負担」と整理できたものだけが、ここから先の話です。

原状回復では、内装や設備の価値は年数とともに下がっていくと考えます。だから長く住んだ人ほど負担割合は小さくなる——クロスなら耐用年数6年で、6年住めば残存価値はほぼなくなる、というあれです(原状回復の減価償却、入居年数で負担割合を残存価値から考える)。

ところが、ふすま紙と障子紙は、この年数の割引がかかりません。

ガイドラインでは、襖紙・障子紙・畳表について、消耗品としての性格が強く減価償却の考え方になじまないものとして、経過年数を考慮せず入居者負担とすることが妥当と整理されています。畳表と同じ扱いですね(畳の表替え・裏返しは誰の負担?原状回復で迷わない仕分けの順番)。

つまり、故意・過失による破損だと判断された場合、10年住んでいてもふすま紙の負担割合は下がりません。

網戸については、少し補足が要ります。ガイドラインが消耗品として名前を挙げているのは襖紙・障子紙・畳表で、網戸の網そのものは明記されていません。実務では紙と同じように消耗品として扱う運用が一般的ですが、明記がない以上、「ガイドラインにそう書いてあります」と言い切らないほうが安全です。網戸の網は消耗品に近い性格のものとして扱っています、という説明のほうが、後から食い違いません。

経過年数の扱い根拠の強さ
ふすま紙・障子紙考慮しない(年数で割り引かれない)ガイドラインに明記あり
網戸の網実務では考慮しない扱いが一般的明記はなし。説明の言い方に注意
建具ごとの交換設備の交換に近く、按分を検討する余地あり見積りの中身で判断

そしてここは、言い方に気をつけたいところでもあります。「年数は関係ありません」だけを先に言うと、入居者には「長く住んだのに損をした」としか聞こえません。必ず手順1とセットで伝えてください。「日焼けした障子は年数に関係なく貸主が持ちます。ふすまの穴の1枚だけ、消耗品の扱いなので年数での割引がないんです」——この順番だと、受け止め方がまるで違います。

なお、契約書に「退去時は網戸・ふすま・障子を全数張り替え、費用は借主負担とする」といった特約が入っていることがあります。特約があれば必ず有効、というわけではありません。判断の目安は特約が無効になるのはどんなとき?消費者契約法10条の考え方に整理しています。

手順3:見積りを「数量 × 単価」に分けて見る

原因と年数の整理ができたら、最後は金額です。ここでやることはひとつ、「一式」を数量と単価に開いてもらうことだけです。

見るポイントを、建具ごとに挙げておきます。

網戸

ふすま

障子

共通して見るところ

金額を入居者に伝えるときは、必ず実際の見積りの数字で話してください。「だいたい◯千円くらいですね」と相場感で口にすると、あとから実額とずれて信用を落とします。見積りの読み方そのものは、原状回復の見積りが妥当か不安なとき、内訳の見方と相見積りの手順にまとめています。按分の当たりをつけたいときは原状回復・入居者負担の目安 計算機もどうぞ。

現場で使える説明の言い方

そのまま声に出せる形にしておきます。

入居者へ

「和室の建具についてご説明します。
窓際の障子の黄ばみは、日当たりによる変色ですので、ご入居期間にかかわらず貸主の負担で対応します。網戸も、破れていないものの張替えはこちらの負担です。
ご負担をお願いしたいのは、ふすま1枚の穴と、網戸1枚の破れの2か所です。ふすま紙や障子紙は消耗品としての扱いになるため、ご入居期間による割引の対象にならない整理になっており、その枚数ぶんの張替え費用をご負担いただく形になります。
見積りは枚数と単価が分かる形でお付けしますので、気になる点があればいつでもお聞かせください。」

オーナーへ

「次の募集に向けて、障子とふすまは全室ぶん張り替えるお見積りを取りました。見栄えがかなり変わりますので、こちらはおすすめしたいところです。
このうち退去者さんにご負担いただけるのは、ふすま1枚と網戸1枚の破れの部分だけです。残りは、次の入居者様をお迎えするための費用として、オーナー様のご負担になります。ガイドラインでも、破損のない網戸の張替えは貸主負担と整理されている部分です。
なお網戸をペット対応の丈夫な網に上げる案も出ていますが、その差額分は退去者さんへの請求には含めず、オーナー様のご判断としてお持ちいただく形になります。」

どちらにも共通しているのは、「どこまでが誰の負担か」を先に言い切ってから、理由を足すという形です。理由から話し始めると、相手は結論を待つあいだずっと身構えることになります。

精算書に落とす前の見直しは敷金精算書を渡す前に、自分で見直すチェックの順番、立会いの場で意見が割れたときは退去立会いで負担が割れたとき、その場で決めずに収める進め方が使えます。

明日やること

大きなことは要りません。ひとつだけで十分です。

  1. 直近の精算書を1件だけ開いてみる。 網戸・ふすま・障子の行が「一式」になっていないか。なっていたら、次回から数量と単価を出してもらうよう業者に一言頼んでおきます。
  2. 入居時の写真に、建具のカットがあるか確かめる。 網戸とふすまは、入居時から小さな破れがあることも多い箇所です。写真がないと「元からありました」の話になりがちなので、撮り方を入居時の室内写真、退去精算でもめないための撮り方と残し方で見直してみてください。
  3. 説明の一言を、自分の言葉にしておく。 「破れていない網戸の張替えは、貸主の負担なんです」——これがとっさに出ると、立会いの空気がずいぶん違います。

確認チェックリスト

仕分けの前に

負担を分けるとき

見積りを見るとき

書面にするとき

全部そろわなくて大丈夫です。「日焼けと未破損は外す」と「破れた枚数だけ」の2つが守れていれば、大きく外すことはまずありません。

よければ、こちらも

同じ退去精算でつながる記事です。負担区分の土台は経年劣化と通常損耗の違い、貸主負担になりやすい箇所の整理メモ原状回復トラブルを防ぐチェックリスト(国交省ガイドラインの考え方で整理)に、年数の按分は原状回復の減価償却、入居年数で負担割合を残存価値から考えるにまとめています。ほかの箇所の線引きは畳の表替え・裏返しは誰の負担?原状回復で迷わない仕分けの順番壁紙の張替え費用、㎡単位と部屋単位どちらで負担を考える?フローリングの傷・へこみ、原状回復の負担はどう算定する?をどうぞ。

張り替えたばかりの白い障子と新しい網戸が入った明るい和室を、穏やかに見渡している賃貸管理担当者

最後に

網戸もふすまも障子も、金額としては小さな項目です。それなのに、退去精算でいちばん最後まで残るのが、たいていこのあたりだったりします。

理由は、たぶん「見た目の問題と、負担の問題が混ざりやすい」からです。1枚だけ張り替えると色が合わない。全部そろえたほうがきれいになる。その気持ちはよく分かるのですが、きれいにする話と、誰が払う話は、別の線で引くしかありません。そしてその線を引くのは、いつも現場のあなたです。

でも、あなたが引こうとしている線には、ちゃんと理由があります。原因で分ける。年数の扱いを確認する。数量と単価で見る。この3つを順番にたどっているだけで、それはもう「さじ加減」ではありません。

網戸の破れも、ふすまの穴も、そこで誰かが暮らしていた跡です。それをひとつずつ見て、責めるでもなく甘くするでもなく、公平なところに落としていく。地味な作業ですが、貸す人と借りる人の両方を、静かに守っている仕事です。

今日、「破れていない網戸は貸主負担」の1行を精算書から外せたなら、それだけで十分です。残りは、次の退去のときにまた一緒に考えましょう。

関連用語