急な退去の申し出を受け、卓上カレンダーと契約書を見比べて家賃の締め日を逆算している賃貸管理担当者

解約予告期間に足りない退去、予告期間分の家賃と日割りの考え方

「すみません、来週末に引っ越すことになりました」。 金曜の夕方にそんな電話が入ると、まず頭に浮かぶのは引っ越しの心配より、「家賃、どこまでいただくんだろう」だと思います。契約書には「1か月前までに書面で通知」と書いてある。でも相手はもう来週には出ていく。その差の分をどう扱えばいいのか、その場で即答できないまま「確認してご連絡します」と電話を切る——これ、賃貸管理をしていれば誰でも一度は通る場面ですよね。

やっかいなのは、この計算が「難しい」のではなく、どの日を基準にするかが決まっていないと計算のしようがないという点にあります。逆に言えば、基準になる日さえ押さえてしまえば、あとは足し算と割り算です。今日は、その基準の決め方から一緒に整理していきます。

結論:解約予告が期間に足りないときは、①予告日(契約上、いつ通知を受けたことになるか)を契約書の定めで確定する → ②そこから予告期間を数えて契約終了日を出す → ③入居者が実際に鍵を返す明渡しの日と、②の契約終了日は別物として分けて扱う → ④家賃は原則②の契約終了日まで発生するものとして、月の途中なら契約書の定めで日割りを計算する、の順で進めます。現場でいちばん多い誤解は、「もう住んでいないのだから家賃は止まる」ではなく、その逆でもなく、「鍵を返した日と、契約が終わる日は違う」という一点に集まります。ここを最初に分けて説明できると、入居者ともオーナーとも話がこじれにくくなります。

一度に全部を抱えなくて大丈夫です。次の順番で、ひとつずつ確かめます。

  1. 契約書で「予告は何か月前・どんな方法で・いつから数えるか」を確認する
  2. 予告日から数えて、契約終了日を出す
  3. 明渡し(鍵の返却)の予定日を、契約終了日と分けて聞き取る
  4. 契約終了日までの家賃を、日割りの定めに沿って計算する

何が起きているか

賃貸借契約の多くには、「借主から解約するときは、○か月前までに書面で通知する」という中途解約の定めが置かれています。これは、貸主側が次の募集や退去後の段取りを始めるための準備期間として設けられているものです。民法にも期間の定めのない建物賃貸借について解約申入れの規定はありますが(民法617条)、実際の賃貸借では契約書の特約が具体的な期間を決めていて、実務はほぼそちらで動きます。

だから、予告が期間に足りないというのは、ルール違反というより「準備期間が確保できなかった」状態だと考えると分かりやすいと思います。その足りない分をどう埋めるかを決めているのが、同じ条文の後半部分です。書き方は契約書によって二通りに分かれます。

ひとつは、予告期間が満了する日まで契約が続くという考え方。6月10日に通知を受けて「1か月前予告」なら、契約が終わるのは7月10日。入居者が6月20日に引っ越して鍵を返しても、契約自体は7月10日まで生きていて、家賃もそこまで発生します。

もうひとつは、「予告期間に満たない場合は、不足する期間分の賃料相当額を支払うことで、希望する日に解約できる」という条項が置かれている形。この場合、契約が終わるのは入居者の希望日で、足りない分は「賃料相当額」としてまとめて精算します。

金額としては、どちらの形でもだいたい同じところに着地します。ただ、契約が終わる日が違うので、その後の動きが変わります。前者だと契約が7月10日まで残っているので、原状回復の工事に入るにも次の募集を始めるにも、入居者の承諾を取っておく必要があります。後者なら6月20日でいったん契約が切れているので、翌日から動けます。空室期間に直結する部分なので、契約書がどちらの書き方になっているかは早めに見ておきたいところです。

そしてもうひとつ、意外とここでつまずくのが「予告日をいつと数えるか」です。契約書に「書面での通知」と書かれている場合、電話をもらった日ではなく、書面が届いた日が起算日になることがあります。さらに、「通知のあった月の翌月1日から起算して1か月」といった月単位の起算になっている契約もあり、この場合は6月10日の通知でも契約終了は7月末——実質2か月近くになります。同じ「1か月前予告」でも、起算の書き方ひとつで結果が20日ほど動くわけです。電話を受けた時点で口頭の日を起算日だと思って案内してしまうと、あとで金額が変わって、入居者に二度手間の説明をすることになります。

手順を小さく分けて

予告日・明渡し・契約終了の3つの日を分けて時系列に並べた図
「鍵を返す日(明渡し)」と「契約が終わる日(契約終了)」は別物。ここを分けると計算が止まらない。

急ぎの電話ほど、確認する順番を決めておくと落ち着いて進められます。

まず、契約書で予告の定めを確認する。見るのは3か所です。何か月前までか。どんな方法で通知することになっているか(書面か、所定の解約届か、口頭でも可か)。そして、いつから数えるか(通知の日からか、通知のあった月の翌月1日からか)。この3つがそろって初めて、予告日が決まります。電話中に契約書を開けないときは、無理にその場で金額を答えず、「解約のお申し出として承りました。家賃の締めについては契約書を確認して、あらためてご連絡します」とだけ伝えれば十分です。慌てて口にした数字を後から訂正するほうが、よほど信頼を損ないます。

次に、予告日から数えて契約終了日を出す。ここで、口頭連絡と書面到着の日がずれる点に気をつけます。契約が「書面の到達日から起算」となっているなら、電話をもらった時点で「解約届の書面をお送りください。こちらに届いた日から起算することになっています」と、理由をそえて早めに案内しておきます。責める言い方ではなく、「早く出していただいたほうが、○○さんの家賃の負担が軽くなります」という伝え方をすると、相手も動きやすいはずです。書面が届いたら、受付日を記録して、契約終了日を確定します。

そのうえで、明渡しの予定日を、契約終了日とは別に聞き取る。「いつ鍵を返しに来られますか」「立会いはいつがご都合よいですか」と、契約の話とは分けて確認します。ここで入居者から「もう出ているのに、なんで7月10日まで家賃がいるんですか」と聞かれるのが、この場面のいちばん難しいところです。そのときは、こう分けて話すと伝わりやすくなります。

「お部屋を出られる日と、契約が終わる日が別になっているんです。契約では『解約のお申し出から1か月後に契約が終わる』と決まっていまして、今回はそれが7月10日になります。お引っ越し自体は6月20日で大丈夫です。鍵はその日にお預かりして、お部屋の確認もそのときにさせていただきます。ご請求としては、7月10日までのお家賃をいただく形になります」

「規約ですので」で終わらせず、どの日がどう決まるのかを分けて言う。それだけで、納得のされ方がずいぶん変わります。

最後に、家賃を計算する。月の途中で契約が終わるときは、日割りの定めを契約書で確認します。「月額を当該月の日数で除する」なのか「30日で除する」なのか、円未満を切り捨てるのか切り上げるのか。ここも契約書が先で、思い込みで計算しないところです。日割りの定めが見当たらないときは、社内でこれまでどう扱ってきたかを確認したうえで、根拠を示せる形(実日数か30日か)を選び、精算書に計算式を書いておきます。

具体的に見てみます。家賃80,000円、1か月前予告、日割りは「月額をその月の日数で除して日数を乗じる(円未満切り捨て)」という契約だとします。

実際に住むのは6月20日までですが、契約は7月10日まで続くので、家賃はそこまで。この「105,806円」という数字だけを先に伝えると冷たく聞こえますが、上の内訳を並べて渡せば、たいていは納得していただけます。精算書には、金額だけでなく予告日・契約終了日・日割りの計算式を書き添えておくと、後から問い合わせが来ても同じ説明を繰り返さずに済みます。

補足:ここで一緒に確認しておきたいこと
- 敷金から充当するのか、別途ご入金いただくのか。充当するなら、原状回復費との差引の順番も精算書で明示する
- 短期解約の違約金(早期解約特約)が別にある契約かどうか。予告不足分と違約金を二重に請求していないかは必ず確認する
- 火災保険・保証委託契約の解約手続きの案内(保険料の返戻は保険会社の規定によります)
- 定期借家の場合、中途解約の扱いは普通借家と異なります。借地借家法に一定の場合の中途解約の定めがあり、契約書の記載とあわせて個別に確認が必要です

影響:早めに動いてもらえるほど、双方が楽になる

予告不足の場面は、放っておくと「入居者は納得していない・オーナーには説明できていない・募集も始まっていない」の三つが同時に滞ります。逆に、契約終了日を早く確定させると、この三つが一度に動き出します。

入居者側は、書面を早く出すほど契約終了日が前に来て、負担する家賃が減ります。だから「書面を出してください」は督促ではなく、相手の利益になるお願いです。この順番で伝えると、口頭のまま止まっていた話が動くことが多いです。

オーナー側には、契約終了日と明渡し予定日、そして募集を開始できる時期を早めに共有します。契約が終わる前に原状回復の工事に入りたい場合は、入居者から鍵を預かって工事に着手することへの承諾を書面でもらっておくと安心です。契約期間が残っている部屋に無断で立ち入って作業を進めるのは、後々の火種になります。

減額や免除を求められることもあります。「もう住んでいないのだから、まけてほしい」「次の人が決まったなら要らないはずだ」。気持ちとしては分かる話ですし、実際、次の入居が早く決まった場合に調整することもあります。ただ、これは担当者が単独で判断することではなく、オーナーの意向を確認したうえで返事をする話です。その場で「難しいと思います」とも「大丈夫だと思います」とも言わずに、「オーナーに確認してご連絡します」と持ち帰る。それが、いちばん自分を守る返し方でもあります。

明日やること

今日いきなり全部を整える必要はありません。次のどれかひとつだけ、手元で準備してみましょう。

このうちひとつあるだけで、次に金曜の夕方に電話が鳴ったとき、あなたの一言目がずいぶん落ち着きます。

チェックリスト

「全部を今日中に」ではなく、確認 → 確定 → 計算 → 共有、の順にそろえていきます。

電話を受けた直後(確認)

契約終了日を確定する

家賃を計算する

共有する

ここで大切なのは、契約書の定めを起点にすることです。予告期間の長さも、起算日も、日割りの計算方法も、契約によって違います。「前の物件ではこうだった」で進めると、根拠のない請求になってしまいます。また、著しく長い予告期間や不足分の請求の妥当性が争いになる場面もあります。契約書の書き方に不安がある場合や、入居者との話し合いが平行線になった場合は、思い込みで押し切らず、オーナー・社内、必要に応じて弁護士など専門家に相談する流れにしておくと、入居者もあなた自身も守れます。

よければ、こちらも

退去の連絡を受けてから精算完了までの全体の流れは退去の連絡が来たら動く、精算完了までの段取りリストにまとめています。予告不足とあわせて出てくる違約金の扱いは短期解約違約金は請求できる?早期解約特約の有効性と精算の進め方、精算書を渡す前の見直しは敷金精算書を渡す前に、自分で見直すチェックの順番にあります。立会いに来られない退去者への進め方は立会いに来られない退去者と、写真とやり取りで進める精算の手順、確定した退去日から募集を早く始める段取りは退去予告から募集開始まで、空室期間を縮める段取りの組み方にまとめました。あわせて読むと、急な退去連絡から募集再開までの流れがつかみやすくなります。

精算書を作り終え、窓の外の夕暮れを眺めて穏やかに息をつく賃貸管理担当者
日付をひとつずつ確かめた計算は、入居者にもオーナーにも、まっすぐ説明できる。

最後に

急な退去の連絡は、たいてい忙しいときにやってきます。しかも相手は引っ越しの準備で気が立っていたり、逆に申し訳なさそうだったり。そこへ「7月10日までの家賃をいただきます」と言うのは、正しい話なのに、言うほうも少し気が重いものです。

それでも、あなたが契約書をきちんと開いて、予告日を確かめて、契約終了日を出して、日割りを検算する。その一手間があるから、入居者は「なぜその金額なのか」を理解して部屋を出ていけますし、オーナーは次の募集の見通しを立てられます。数字を確かめるという地味な作業が、そのまま人と人の間のもめ事を減らしているんですね。

一度に全部を完璧にそろえなくて大丈夫です。今日は、担当物件の契約書を1件だけ開いて、解約予告の条文がどこにあるかを確かめておく。それだけで、次に金曜の夕方に電話が鳴ったとき、あなたはもう少し落ち着いて、やさしい一言目から始められます。

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