
家賃査定はどう進める?近隣相場の調べ方と募集賃料の決め方
退去の連絡が入って、オーナーから「次はいくらで募集しますか」と聞かれる。前の入居者と同じ金額でいいのか、少し上げられるのか、それとも下げないと決まらないのか。頭の中に数字はぼんやり浮かんでいるのに、その数字の理由をうまく言葉にできない——そんな瞬間はありませんか。
家賃査定は、正解が一つに決まらない仕事です。だから「当てにいく」のではなく、あとから説明できて、あとから直せる出し方にするのがいちばん現実的です。この記事では、その手順を一緒に整理していきます。
結論:募集賃料は、①比べる物件を3〜5件集める → ②共益費込みの総額と面積でそろえる → ③下限・中心・上限の「幅」で出す → ④出したあと2週間ごとに反響で検証して直す、の順で決めます。一発で正解を当てる必要はありません。説明できる根拠と直すきっかけを先に用意しておくことが、結果的にいちばん早く決まる進め方です。
はじめから精密な査定書を作らなくて大丈夫です。まずは、比べる相手を集めるところから見ていきましょう。
何が起きているか
査定が難しく感じるのには、いくつか理由があります。
ひとつは、「相場」というひとつの数字は、どこにも存在しないこと。同じ駅の同じ広さでも、築年、階数、向き、設備、管理状態で金額は動きます。ポータルサイトの相場ページに出ている平均値は、その幅の真ん中を示しているだけで、あなたの部屋の値段ではありません。
もうひとつは、募集賃料と成約賃料は別物だということ。ポータルに並んでいるのは「まだ決まっていない部屋の希望価格」です。3か月前から同じ金額で載り続けている部屋を基準にすると、決まらない金額を基準にしてしまうことになります。
そして、オーナーの期待値と市場の間に立たされること。前の入居者が10年住んでいれば、その家賃は10年前の相場です。ここを説明する役目は、たいてい管理担当者に回ってきます。数字を出すこと自体より、この説明のほうが気が重い、という人も多いはずです。
だからこそ、感覚ではなく手順にしておきます。手順があれば、オーナーに聞かれても、後任に引き継ぐときも、同じ説明ができます。
家賃査定の進め方

順番に見ていきます。目的は、精密な査定書を作ることではなく、「なぜこの金額なのか」を30秒で説明できる状態を作ることです。
① 対象の部屋を1枚に書き出す
比べる前に、まず自分の部屋の条件を書き出します。ここが曖昧だと、比較相手も選べません。
- 専有面積(㎡)と間取り
- 築年数(新築年月)
- 最寄り駅と徒歩分数(複数路線ならすべて)
- 階数、方角、角部屋かどうか
- 設備(エアコン、独立洗面台、バス・トイレ別、宅配ボックス、オートロック、インターネット無料、洗濯機置場が室内か)
- 駐車場・駐輪場の有無と料金
- 共益費(管理費)、更新料の有無
- ペット可、楽器可などの条件
- 現況(原状回復の予定、いつから内見できるか)
紙1枚、あるいはメモアプリ1画面で十分です。この1枚が、そのままマイソク(募集図面)のもとにもなります。
② 比べる物件を3〜5件集める
次に、同じ土俵に乗る物件を集めます。多ければいいわけではありません。条件が近いものを3〜5件で十分です。
絞り込みの目安は次のとおりです。
- 同じ駅(または隣接の同程度の駅)で、徒歩分数が±3分以内
- 専有面積が±3㎡以内、間取りは同じ
- 築年数が±5年以内
集める先は、いくつかあります。
ポータルサイト(募集中の物件) いま市場に出ている競合そのものです。ただし前述のとおり、これは「希望価格」。可能なら掲載が始まった時期もメモしておくと、長く残っている=決まりにくい金額かどうかの手がかりになります。
自社・自管理の直近の成約 いちばん信頼できる材料です。半年以内に決まった部屋があれば、その金額と、決まるまでにかかった日数を必ず控えておきます。
レインズ(指定流通機構)の成約事例 宅地建物取引業者が利用する仕組みです。賃貸は売買と違って登録が義務づけられていないため件数は限られますが、近隣の事例が見られることがあります。自主管理の大家さんは利用できないので、付き合いのある仲介会社に「最近このあたり、どのくらいで決まっていますか」と聞くのがいちばん確実です。
仲介会社への確認は、査定のためだけでなく、そのまま客付けの相談にもなります。関係づくりの進め方は仲介会社に物件を覚えてもらう情報提供の続け方にまとめています。
③ 共益費込みの総額と面積でそろえる
集めた物件は、そのままでは比べられません。共益費の設定も面積も違うからです。そこで、次の2つでそろえます。
- 入居者が毎月払う総額(家賃+共益費)にそろえる
- 専有面積で割って㎡単価にする
たとえば、こんな2件があったとします。
| A物件 | B物件 | |
|---|---|---|
| 家賃 | 78,000円 | 82,000円 |
| 共益費 | 5,000円 | 2,000円 |
| 月額の総額 | 83,000円 | 84,000円 |
| 専有面積 | 25㎡ | 26㎡ |
| ㎡単価 | 約3,320円 | 約3,231円 |
家賃だけを見るとAのほうが4,000円安く見えます。でも、共益費まで入れた総額の差は1,000円、面積で割るとBのほうが割安です。入居者が比べているのは、たいてい毎月出ていくお金の合計のほうです。
そのうえで、条件の差を足し引きします。築年が新しい、駅に近い、上階、角部屋、独立洗面台がある——こうした差は金額に反映されますが、いくら分になるかは地域と物件の種別で大きく変わります。全国共通の換算表はありません。自社の直近成約や、仲介会社の感覚を借りて調整するのが現実的です。
④ 「幅」で出して、区切りを意識して決める
ここまでで、㎡単価のばらつきが見えているはずです。そこから、下限・中心・上限の3つを出します。
- 上限:条件のいい競合と並ぶ金額。早く決まらなくても待てるときの設定
- 中心:条件をそろえた比較の真ん中。標準的な設定
- 下限:これ以上は下げたくない金額。オーナーの収支から逆算しておく
ひとつの数字だけ持っていくと「高い/安い」の議論になりますが、幅で持っていくと「どのくらいの期間で決めたいか」の相談になります。この違いは、オーナーとの会話をかなり楽にします。
金額を決めるときに、もうひとつ実務的な視点があります。検索の区切りです。多くのポータルサイトでは、入居希望者が「8万円以下」「8万5千円以下」といった区切りで絞り込みます。81,000円で出すと、8万円以下の検索結果からは外れてしまう。1,000円のために、見てもらえる母数を減らしていないかは一度確認しておく価値があります。
なお、その絞り込みに共益費が含まれるかどうかは、サイトによって扱いが違います。自分がよく使う掲載先の仕様を一度確かめておくと、家賃と共益費の配分を決めるときに迷いません。
⑤ オーナーに説明する
査定の数字より、実はここがいちばんの山場です。用意するのは、A4で1枚。
- 比較した3〜5件の一覧(家賃・共益費・面積・築年・駅徒歩・㎡単価)
- そこから出した下限・中心・上限
- 提案する募集賃料と、その理由を2〜3行
- 想定する募集期間
「下げましょう」だけでは、オーナーは納得しにくいものです。空室のままでいる金額も一緒に置くと、話が具体的になります。
たとえば家賃80,000円の部屋なら、1か月空室が続くと80,000円の減収です。ここで3,000円下げると、年間では 3,000円×12か月=36,000円の減収になります。3,000円下げたことで1か月早く決まったなら、初年度は 80,000円−36,000円=44,000円のプラスです。
ただし、これは入居が続くほど逆転していきます。2年住んでもらえば減収は72,000円で、まだ8,000円のプラス。3年目に入ると108,000円になり、1か月分の空室(80,000円)を上回ります。おおよそ2年3か月あたりが分かれ目です(80,000円 ÷ 36,000円 ≒ 2.2年)。
つまり、値下げは効果が一瞬で、減収はずっと続く。だからこそ、金額を動かす前に、フリーレントや初期費用の調整といった「一度きりの譲歩」で試す順番になります。この考え方は募集条件の見直し、家賃を下げる前に試せる選択肢とフリーレントのメリットと注意点で詳しく整理しています。
※ここで使った数字はあくまで一例です。実際は、募集にかかる広告料や原状回復費、共益費の扱いによって変わります。ご自身の物件の数字で計算し直してみてください。
⑥ 出したあとに検証して、直す
査定でいちばん大事なのは、この最後の工程かもしれません。出した金額は、仮説です。
目安:掲載開始から2週間
- 問い合わせが0件 → 見え方(写真・図面・掲載先)か、金額の区切りを疑う
- 問い合わせはあるが内見に至らない → 掲載情報と実物のギャップ、条件面(初期費用・入居可能日)を疑う
- 内見はあるが決まらない → 室内の状態、におい、清掃、競合との比較負けを疑う
金額をいじる前に見るべきところがある、というのは覚えておくと役に立ちます。写真や紹介文の整え方は空室の第一印象を整える写真と紹介文、内見後に決まらないときの見直しは内見後に決まらない物件で見直したいポイントへ。反響への初動そのものが原因のこともあります(反響から内見までの初動)。
影響:査定は「金額」より「説明」が残る
家賃査定でつけた数字は、決まってしまえば数年間そのままです。でも、実務に長く残るのは金額そのものより、そのとき何を根拠にしたかという記録のほうです。
根拠を残しておくと、次の3つの場面で自分を助けます。
- オーナーから半年後に「なぜこの金額だったのか」と聞かれたとき:比較表が1枚あれば、記憶に頼らず答えられます。
- 次の退去のとき:前回の査定と、実際に決まった金額・日数を並べれば、二度目からは精度が上がります。
- 担当が変わるとき:後任が同じ物件でゼロから悩まずに済みます。
査定は一回限りの作業に見えて、実は次の査定のための材料づくりでもあります。だから完璧でなくていい。残っていることのほうが大事です。
明日やること
全部いっぺんにやらなくて大丈夫です。次のどれかひとつだけ、手を動かしてみましょう。
- いま募集中の部屋を1件選び、①の条件を紙1枚に書き出す
- ポータルサイトで、条件の近い競合を3件だけ書き出して、共益費込みの総額を並べてみる
- 直近半年に決まった自社の部屋を1件思い出して、金額と決まるまでの日数をメモに残す
- 仲介会社の担当者に「最近このあたり、どのくらいで決まっていますか」と一言聞いてみる
3件並べるだけでも、自分の部屋がどのあたりにいるかが見えてきます。それが分かるだけで、オーナーとの会話はずいぶん落ち着いたものになります。
チェックリスト
最低限のところから進めて、余裕が出たら拡張へ移ります。
最低限版
- 対象の部屋の条件を1枚に書き出した(面積・築年・駅徒歩・階数・設備・共益費)
- 条件の近い競合を3件以上集めた(面積±3㎡、築年±5年、徒歩±3分が目安)
- 募集中の物件と、成約した事例を分けてメモした
- 家賃+共益費の「月額の総額」でそろえて比べた
- 専有面積で割った㎡単価で並べ直した
- 下限・中心・上限の3つの金額を出した
- ポータルの検索の区切り(8万円以下など)をまたいでいないか確認した
- 提案する金額の理由を2〜3行で書けるようにした
- 掲載開始から2週間後に見直す日を、カレンダーに入れた
拡張版(できると安心)
- 直近の自社成約について「金額・決まるまでの日数・広告料」を一覧で残している
- 空室1か月あたりの減収額を、物件ごとに把握している
- 値下げしたときに何年で逆転するかを、自分の物件の数字で計算してみた
- 家賃と共益費の配分を、掲載先の絞り込み仕様に合わせて決めている
- オーナーへ渡す比較表のひな形(A4・1枚)を作ってある
- 繁忙期・閑散期で募集の出し方を変える方針を決めている(繁忙期と閑散期の動き方)
- 退去予告を受けた時点で査定を始める段取りにしている(空室期間を縮める段取り)
ひとつだけ気をつけたいのは、下限をオーナーに先に見せないことです。最初から下限が見えていると、そこが出発点になってしまいます。幅を示すときは、中心の金額とその理由から話し始めるほうが、落ち着いた相談になります。
よければ、こちらも
金額を動かす前にできることは募集条件の見直し、家賃を下げる前に試せる選択肢に、募集図面の整え方はマイソクの作り方にまとめています。すでに入居している方への家賃改定は、査定とは別の話(借地借家法の枠組み)になるので、家賃改定をお願いするときの順番と書面を参考にしてください。

最後に
家賃査定は、正解のない仕事です。同じ部屋を10人が査定すれば、10通りの金額が出ます。だから、当たらなかったときに自分を責める必要はありません。
大事なのは、なぜその金額にしたかを自分の言葉で言えることと、違ったときに直せること。この2つさえあれば、査定は「勘」ではなく「実務」になります。そして一度でも比較表を作っておけば、次の部屋はもっと早く出せます。
今日は、競合を3件だけ書き出してみるところからで十分です。並べたその紙が、次にオーナーと話すときのあなたの味方になります。
関連用語
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