退去後の和室で、畳のシミと日焼けを見比べながら負担区分を考えている賃貸管理担当者

畳の表替え・裏返しは誰の負担?原状回復で迷わない仕分けの順番

退去した和室に入って、まず目に入るのが畳です。

窓際は日に焼けて色が変わっている。部屋の真ん中には、飲み物をこぼしたらしい輪じみが残っている。隅のほうには、たばこの焦げ跡がひとつ。

「表替えは要るな」と思ったところで、手が止まります。これ、入居者さんに請求していいんだろうか。 6年住んでもらった部屋だし、「経年劣化ですよね」と言われたら、なんと返せばいいのか。

畳は、クロスやフローリングと同じ物差しでは測れないところがあります。しかもその違いは、契約書を読んでも書いていないことが多い。迷って当然の場所です。今日は、その仕分けの順番を一緒に整理していきます。

結論:畳は2段階で考えます。①まず「その傷みは通常損耗か、入居者の使い方によるものか」を分ける(通常損耗・経年変化なら、何年住んでいても貸主負担)。②入居者負担と決まったものだけ、畳表と畳床で分けて計算する——畳表は消耗品として扱われるため経過年数を考慮しない(負担割合が年数で下がらない)、畳床は耐用年数6年で按分する。施工単位は原則1枚です。

順番が大事です。①を飛ばして「畳表は年数を考慮しないから全額請求できる」と考えてしまうと、本来は貸主負担のものまで請求してしまいます。ここから、ひとつずつ見ていきます。

まず、言葉を3つそろえておく

裏返し・表替え・新調という3つの畳の直し方を左から順に並べた図
直し方は3種類。どこまで新しくするかで費用も負担の考え方も変わる。

先に用語をそろえておくと、あとの話がぐっとラクになります。

畳は、大きく畳床(たたみどこ)畳表(たたみおもて)でできています。畳床は中身の土台部分、畳表は表面に張ってあるい草のゴザの部分です。この2つでルールが変わるので、まずここだけ押さえてください。

そのうえで、直し方は3種類あります。

一般的な入れ替えの目安は、新調から数年で裏返し、そこから数年で表替え、さらに年数が経てば新調——という流れです。年数の感覚は畳の使い方や畳表の等級でかなり変わるので、目安として頭に置いておく程度で十分です。

費用も、地域や畳表の等級によって幅があります。ざっくりした感覚では裏返しがいちばん安く、表替えはその数倍、新調はさらに大きく上がるという順番です。金額を入居者に伝えるときは、必ず実際の見積りの数字で話してください。相場感で口にすると、後から実額とずれて信用を落とします(原状回復の見積りが妥当か不安なとき、内訳の見方と相見積りの手順)。

手順1:その傷みは「通常損耗」か「使い方によるもの」か

ここが出発点です。畳の負担を考えるとき、先に外すべきものを外すところから始めます。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」——実務でも裁判でも参照される標準的な物差しです(国交省「原状回復ガイドライン」の読み方)——では、畳について次のように整理されています。

貸主(賃貸人)負担になりやすいもの

入居者(賃借人)負担になりやすいもの

冒頭の部屋に当てはめると、窓際の日焼けは貸主負担輪じみと焦げ跡は入居者負担の候補、ということになります。同じ1枚の畳の中に両方がある——現場でよくある形です。

大事なのは、「表替えが必要かどうか」と「誰が負担するか」は別の話だということ。表替え自体は次の募集のために必要でも、その費用を入居者に持ってもらえるかは、傷みの原因で決まります。ここが混ざると請求が過大になります。

判断に迷ったときの基本の考え方は、経年劣化と通常損耗の違い、貸主負担になりやすい箇所の整理メモにまとめています。

手順2:入居者負担のものだけ、畳表と畳床で分ける

手順1で「入居者負担」と整理できたものだけが、ここから先の話です。

そして畳には、クロスやフローリングとは違う、知っておくと迷わなくなるルールがあります。

畳表は、経過年数を考慮しません。

原状回復では、内装や設備の価値は年数とともに下がっていく(=残存価値が減る)ので、長く住んだ人ほど負担割合は小さくなる、という考え方をとります。クロスなら耐用年数6年で、6年住めば残存価値はほぼなくなる、というあれです(原状回復の減価償却、入居年数で負担割合を残存価値から考える)。

ところが畳表は、障子紙・ふすま紙・網戸などと同じ「消耗品としての性格が強いもの」として扱われます。消耗品に減価償却の考え方をあてはめるのは適当ではない、という理由で、経過年数を考慮せず、入居者負担とすることが妥当と整理されています。

つまり、入居者の故意・過失による損傷だと判断された場合、10年住んでいても畳表の負担割合は下がりません

一方、畳床は耐用年数6年の考え方が使われます。カーペットやクッションフロアと同じ扱いです。ペットの尿が畳床までしみ込んだ、水濡れで畳床にカビが回った——こういうときは新調が必要になりますが、その費用は経過年数に応じて按分されます。按分の当たりをつけるには原状回復・入居者負担の目安 計算機が使えます。

まとめると、こうなります。

経過年数の扱い入居者負担と判断された場合
畳表(表替え・裏返し)考慮しない年数で割り引かれない
畳床(新調)耐用年数6年で按分住んだ年数のぶん負担は下がる

ただ、ここは説明の仕方に気をつけたいところでもあります。「年数を考慮しません」だけを先に言うと、入居者には「長く住んだのに損をした」と聞こえます。手順1の話とセットで伝えてください。「日焼けの部分は年数に関係なく貸主が持ちます。焦げ跡の部分だけ、消耗品の扱いなので年数での割引がないんです」——この順番なら、納得の度合いがまったく違います。

手順3:何枚ぶん請求するかを決める

次は範囲の話です。畳の施工単位は、原則1枚(1畳)単位と整理されています。

たとえば6畳の和室で、焦げ跡が1枚に収まっているなら、請求できるのはその1枚の表替え費用まで。「見た目がそろわないから6枚まとめて」は、入居者負担としては通りにくい考え方です。

損傷が複数枚にまたがっているなら、またがっている枚数ぶん。壁紙のような「色合わせのために部屋単位で」という発想は、畳ではとりにくいと考えておくほうが安全です(壁紙の単位の考え方は壁紙の張替え費用、㎡単位と部屋単位どちらで負担を考える?にまとめています)。

もちろん、オーナーの判断で部屋全体の表替えをすること自体は自由です。そのうち入居者に請求するのは損傷部分だけ、と切り分ければいいだけです。ここを分けて考えられると、オーナーにも入居者にも同じ説明ができるようになります。

現場で使える説明の言い方

説明の順番を、そのまま声に出せる形にしておきます。

入居者へ(畳表の負担を説明するとき)

「和室の畳ですが、窓際の日焼けによる色の変化は、住まわれ方とは関係なく生じるものですので、こちらは貸主の負担で対応します。
ご負担をお願いしたいのは、〇枚目の焦げ跡の部分だけです。畳の表面は消耗品として扱われるため、ご入居期間による割引の対象にならない扱いになっており、その1枚分の表替え費用をご負担いただく形になります。
見積りの内訳をお付けしますので、ご不明な点があればいつでもお聞かせください。」

オーナーへ(貸主負担ぶんを説明するとき)

「和室の畳は6枚とも表替えをしたほうが次の募集で見栄えがしますので、全面の表替えでお見積りを取りました。
このうち入居者さんにご負担いただけるのは、焦げ跡のある1枚分です。残りの5枚は、次の入居者様をお迎えするための費用として、オーナー様のご負担になります。ガイドラインでも、破損のない畳の表替えは貸主負担と整理されている部分です。」

どちらにも共通するのは、「どこまでが誰の負担か」を先に言い切ってから、理由を足すという形です。理由から話し始めると、相手は結論を待つあいだ不安になります。

精算書に落とすときの見直しは、敷金精算書を渡す前に、自分で見直すチェックの順番が使えます。立会いの場で意見が割れたら、その場で金額を決めない——退去立会いで負担が割れたとき、その場で決めずに収める進め方にまとめました。

明日やること

大がかりなことは要りません。次の退去までにできる小さなことを、ひとつだけ。

  1. 直近の和室の精算書を1件だけ開いてみる。畳の項目が「表替え一式・6枚」になっていないか。損傷が1枚なら、そこを1枚分に直せるかを見てみます。
  2. 入居時の写真に、和室のカットがあるか確かめる。畳は入居時からシミや焼けがあることも多く、写真がないと「元からあった」の話になりがちです。撮り方は入居時の室内写真、退去精算でもめないための撮り方と残し方に整理しています。
  3. 説明の一言を、自分の言葉にしておく。「畳の表面は消耗品の扱いなので、年数による割引がないんです」——これがとっさに出ると、立会いの空気がずいぶん変わります。

確認チェックリスト

仕分けの前に

負担を分けるとき

書面にするとき

全部そろわなくて大丈夫です。「日焼けは外す」と「損傷した枚数だけ」の2つを守れていれば、大きく外すことはまずありません。

よければ、こちらも

同じ退去精算でつながる記事です。負担区分の考え方そのものは経年劣化と通常損耗の違い、貸主負担になりやすい箇所の整理メモ原状回復トラブルを防ぐチェックリスト(国交省ガイドラインの考え方で整理)に、年数による按分は原状回復の減価償却、入居年数で負担割合を残存価値から考えるにまとめています。ほかの箇所の線引きはフローリングの傷・へこみ、原状回復の負担はどう算定する?壁紙の張替え費用、㎡単位と部屋単位どちらで負担を考える?タバコのヤニ汚れ・臭い、原状回復でどこまで請求できる?をどうぞ。

表替えの終わった青々とした和室を、満足そうに見渡している賃貸管理担当者

最後に

畳の負担区分は、金額としては大きくないことが多い項目です。数千円から、せいぜい数万円。それなのに、揉めるとやたら消耗します。

理由は、たぶん「感覚で決めているように見えてしまう」からです。日焼けもシミも焦げ跡も、同じ畳の上に並んでいる。そこに線を引く仕事は、外から見ると担当者のさじ加減に見えてしまう。だから相手も食い下がるし、こちらも説明に自信が持てなくなります。

でも、あなたが引こうとしている線には、ちゃんと理由があります。原因で分ける。畳表と畳床で分ける。枚数で分ける。この3つを順番にたどっているだけで、それはもう「感覚」ではありません。

和室の畳は、そこで暮らした人の生活が、いちばん素直に残る場所です。座った跡、家具の跡、こぼした跡。それをひとつずつ見て、責めるでもなく甘くするでもなく、公平な線を引いていく。地味ですが、貸す人と借りる人の両方を守っている仕事です。

今日、日焼けの1枚を貸主負担に回せたなら、それだけで十分です。残りは、次の退去のときにまた考えましょう。

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