
敷金の返金振込、金額確定から入金までの事務手順と連絡の文例
退去の立会いが済んで、見積もりがそろって、精算書もようやくできあがった。長かった退去精算も、あとは返金を振り込むだけ。
ところが、その「振り込むだけ」のところで、ひやりとすることがあります。聞いていた口座番号が1桁違って振込が戻ってきた。期日の日が祝日で、1日遅れてしまった。入居者から「まだ入っていないんですけど」と電話が来て、慌てて振込の控えを探す。
返金は、退去精算の中でいちばん最後の、いちばん短い作業です。だからこそ、疲れが出て、確認が手薄になりやすいところでもあります。ここは担当者の注意力の問題というより、最後の工程ほど「もう終わった気分」で進めてしまいやすいというだけのことです。最後の一手を落ち着いて進める順番を、一緒に整えておきましょう。
結論:敷金の返金振込は、①金額の合意 → ②口座の確認 → ③オーナー承認 → ④ふたりで振込内容を確かめる → ⑤振込後に知らせて控えを残す、の5つの順番で進めると、口座違いや期日のずれをぐっと減らせます。いちばん効くのは②で、口座は電話の口頭ではなく、文字で受け取ること。今日は、手元で返金待ちになっている1件の口座情報が「どう受け取ったものか」を見てみるところからで十分です。
何が起きているか:返金振込でつまずきやすい理由
敷金の返金振込でつまずきやすいのには、現場なりの理由があります。
ひとつは、口座情報を受け取る場面がばらばらなことです。解約の電話のついでに口頭で聞いた、立会いの場でメモ用紙に書いてもらった、あとからメールで届いた。受け取り方がそろっていないと、どれが最新でどれが正しいのか、振込の直前に迷うことになります。
もうひとつは、お金の出どころと承認の流れが、物件ごとに違うことです。敷金を管理会社が預かっている物件もあれば、オーナーが直接持っている物件もあります。「誰の口座から、誰の承認で出すのか」が案件ごとに頭の中だけにあると、振込の段階で手が止まります。
そして、返金の期日が、契約書の中に埋もれていることです。「明渡し後◯日以内」「1か月以内に返還」など、契約によって書き方が違います。精算書づくりに気を取られているうちに、期日が近づいていた、ということは珍しくありません。
なお、民法では、敷金は賃貸借が終わって、部屋の明渡しを受けたときに、未払いの家賃などを差し引いた残りを返すものと定められています(民法622条の2)。つまり返金の手続きは、明渡しが済んでから動き出すものです。そのうえで、いつまでに返すかは契約書の定めに沿って進めることになります。
具体例:返金を振り込むまでの5つの順番

1. 金額の合意をとる まず、精算書を入居者に渡して、金額に納得してもらえたかの返事をもらいます。精算書を送っただけで振り込んでしまうと、あとから「この項目はおかしい」と言われたときに、返金済みの金額をめぐって話がややこしくなります。「内容をご確認いただき、ご不明点がなければ◯日までにご返信ください」と期日をそえて、返事を待つ形にしておくと進めやすくなります。
期日までに返事がない場合も、黙って待ち続けるより、もう一度だけ声をかけてから進めるほうが、あとで気持ちよく終われます。精算書そのものの見直しは、敷金精算書を渡す前に、自分で見直すチェックの順番にまとめています。
2. 口座の確認をする ここがいちばん大事なところです。口座情報は、電話の口頭ではなく、文字で受け取ります。専用の届出用紙やフォーム、メールなど、入居者自身が書いたものが手元に残る形にしておきます。
見ておきたいのは次の点です。
- 口座名義が契約者本人か:原則は契約者本人の名義の口座に返します。ご家族の口座など、本人以外の名義を指定されたときは、「この口座に振り込んでください」という本人からの依頼を書面でもらっておくと安心です。
- 法人契約なら、法人名義の口座か:社宅として借りていた場合は、住んでいた社員の方ではなく、契約者である法人の口座に返すのが基本です。
- 名義のカナ:振込ではカナ名義が照合されます。旧姓のままの口座など、契約書と表記が違うことがあるので、カナを書いてもらう欄を用意しておきます。
3. オーナー承認をとる 返金額と振込予定日を、オーナーに伝えて承認をもらいます。あわせて、どの口座からお金を出すのかを確かめます。管理会社が敷金を預かっている場合は、預かり金の残高が足りているか。オーナーが直接持っている場合は、オーナーから振り込んでもらうのか、いったん管理会社に入金してもらうのか。ここは物件ごとに決め方が違うので、案件の最初に一度確かめておくと、最後に慌てません。
なお、賃貸住宅管理業の登録をしている管理会社は、預かった家賃や敷金を自社の財産と分けて管理する(分別管理)ことが求められています。返金の出どころがはっきりしていることは、そのまま預かり金をきちんと扱えている証しにもなります。
4. ふたりで振込内容を確かめる 振込の入力が終わったら、実行の前に、もう1人に届出書と画面を見比べてもらいます。見るのは4点だけです。
- 金融機関名・支店名
- 口座番号(1桁ずつ)
- 名義のカナ
- 金額(精算書の最終行と同じか)
ひとり事務所でどうしても2人目がいないときは、入力した日とは別の時間に、自分で読み上げながらもう一度見るだけでも違います。
あわせて、振込日が期日に間に合うかも見ておきます。期日が土日祝にあたるときは前の営業日に、金融機関の当日扱いの締め時刻を過ぎると翌営業日の扱いになることもあるので、余裕を持った日に実行しておくと安心です。
振込手数料をどちらが負担するかは、契約書に定めがあればそれに沿います。定めがない場合、民法では弁済の費用は払う側(ここでは返す側)の負担が原則とされています。返金額から手数料を差し引くなら、精算書にその旨を書いておきましょう。
5. 振込後に知らせて、控えを残す 振り込んだら、「◯月◯日に◯円を振り込みました」と入居者に一言知らせます。入居者の側から「まだですか」と電話をかけてもらう前に、こちらから伝えておく。それだけで、退去のやりとりが気持ちよく終わります。
振込の控え(振込明細や、ネットバンキングの受付画面)は、精算書と一緒に案件のファイルに保存し、台帳に「返金済み(◯月◯日)」と1行残します。あとから問い合わせが来たときも、控えを見ればすぐ答えられます。
そのまま使える連絡の文例
精算書に同封する、返金口座の届出のお願いの例です。自社の書式に合わせて調整してください。
【敷金返金のお振込先のご登録のお願い】
◯◯様
このたびはご退去のお手続き、ありがとうございました。
同封の精算書のとおり、敷金の返金額は ◯◯,◯◯◯円 となります。
内容をご確認いただき、ご不明点がなければ
下記にお振込先をご記入のうえ、◯月◯日までにご返送ください。
金融機関名( )支店名( )
口座種別 □普通 □当座
口座番号( )
口座名義(カナ)( )
※原則として、ご契約者様ご本人名義の口座へお振込みいたします。
※ご記入内容をもとにお振込みしますので、
お手数ですが通帳やキャッシュカードを見ながらご記入ください。
※お振込みは、ご返送いただいた日から◯営業日以内を予定しています。
振り込んだあとに送る、お知らせの一言の例です。
◯◯様
いつもお世話になっております。◯◯管理の◯◯です。
本日◯月◯日、敷金の返金 ◯◯,◯◯◯円 を
ご指定の口座へお振込みいたしました。
通帳には「◯◯カンリ」の名義で記載されます。
反映まで少しお時間がかかる場合がございますので、
数日たっても確認できないときは、お気軽にご連絡ください。
ご入居中は大変お世話になりました。
通帳に何という名義で表示されるかをそえておくのがコツです。入居者が「これが返金かな」と迷わずに済み、問い合わせの電話がぐっと減ります。
影響:最後のひと手間が、退去全体の印象を決める
返金振込は、退去精算のなかではほんの数分の作業です。でも、ここでつまずくと、それまでの丁寧な段取りが少しかすんで見えてしまいます。
口座違いで振込が戻ってきたとき:口座番号の違いや、すでに解約された口座だった場合、振込は数日後に戻ってくる(資金返却)ことが多く、そのぶん返金が遅れます。入居者にお詫びをして、口座をもう一度文字で受け取り直すところからやり直しになります。
別の人の口座に振り込んでしまったとき:誤って振り込んだお金を取り戻す「組戻し」は、金融機関に依頼しても、受け取った側の承諾がないと戻ってこないうえ、手数料もかかります。確認に1分かけることで、この手間をまるごと避けられます。
期日を過ぎてしまったとき:数日の遅れでも、入居者からすると「このまま返ってこないのでは」という不安につながります。遅れそうなときは、期日の前に「◯日のお振込みになります」と先に一言伝えるだけで、受け止め方は大きく変わります。
一方で、気をつけたい場面もあります。
入居者と連絡がつかなくなったとき:返金口座を聞けないまま連絡が途絶えることがあります。転送先の住所に書面を送る、緊急連絡先に事情を伝えて協力をお願いする、といった順で手を尽くします。それでも受け取ってもらえないときは、法務局に預ける「供託」という方法もあるので、オーナーと相談のうえ、専門家や法務局の窓口に確かめてみてください。
入居者が亡くなられていたとき:返金は、相続人の方へお返しすることになります。誰の口座に返すかは、相続人の確認とあわせて慎重に進めたいところです。進め方は入居者が亡くなったとき、賃借権の相続と解約・残置物の進め方もあわせてご覧ください。
なお、ここに書いた進め方は一般的な整理です。返還の期日や振込手数料の扱い、預かり金の管理方法は、契約書や管理委託契約の内容、会社のルールによって異なりますので、判断に迷うところはオーナーや専門家への確認を挟んでください。
明日やること
返金待ちの案件をすべて一度に見直す必要はありません。まず1件から動いてみましょう。
- 手元で返金待ちになっている1件の口座情報が、「文字で受け取ったものか」を見てみる
- 精算書の送付状に、返金口座の届出欄を1つ差し込んでおく
- 振込後のお知らせの文例を、メールの定型文に1つ登録しておく
このうちひとつでも手をつけられれば、次の返金から、最後の一手がずっと落ち着いたものになります。
チェックリスト
敷金の返金振込を、上から順にたどれる形にしました。全部を一度に整えなくて大丈夫です。
- 部屋の明渡し(鍵の返却)が済んでいるか
- 契約書で、返金の期日(「明渡し後◯日以内」など)を確認したか
- 精算書を渡し、入居者から金額に納得した旨の返事をもらったか
- 返金口座を、口頭ではなく文字(届出書・フォーム・メール)で受け取ったか
- 口座名義が契約者本人(法人契約なら法人)か、違う場合は本人の依頼書面があるか
- 名義のカナを確認したか
- 返金額と振込予定日について、オーナーの承認をもらったか
- どの口座からお金を出すのか(預かり金の残高を含めて)確かめたか
- 振込手数料の負担について、契約書の定めを確認したか
- 振込の前に、金融機関・口座番号・名義カナ・金額をもう1人(または別の時間の自分)が見比べたか
- 期日が土日祝や締め時刻にかからない日に振り込んだか
- 振込後、振込日・金額・通帳に表示される名義を入居者に知らせたか
- 振込の控えを精算書と一緒に保存し、台帳に「返金済み」と日付を残したか
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最後に
敷金の返金は、うまくいっても誰かにほめられる仕事ではありません。入居者にとっては「返ってきて当たり前」のお金で、振り込んだあとに届くのは、たいてい短いお礼の一言か、何もないかのどちらかです。
でも、口座を文字で受け取ったこと、振込の前にもう一度見比べたこと、「振り込みました」と一言伝えたこと。その小さな積み重ねが、退去していく人の「最後まで丁寧だったな」という記憶を、静かに作っています。
全部の仕組みを今日そろえなくて大丈夫です。まず1件、口座情報の受け取り方を見てみる。そこから、最後の一手に落ち着いて向き合える日が、少しずつ増えていきます。